深谷建築設計工房の事務所を建替えまして、新しい事務所にて心機一転仕事をしています。
この建物では、既存の在来軸組工法と金物工法の標準金物を併用、安価な105㎜巾の木材を使用し、一風変わった木架構設計をおこないました。
具体的には、荷重が大きくかかる長スパンの梁は小径部材を合成した梁としていたり、1階柱の浮き上りを防止する金物を柱の中におさめたり(階段室は軸組架構や金物部材がわざと見えるデザインにしてますが、意匠上余計な要素は隠しています)、直交する梁を在来工法である「相欠き」で升目に組んで強固な水平剛性を確保しながら2階梁せいを最小限にし、2階高さを低くおさえたりしています。最大の構造的特徴は建物内外にあらわれる異勾配(長方形平面)の方形屋根架構です。方形屋根は、四隅から棟が斜めに立上り中央の一点に集約する屋根形式で、通常は正方形の平面に適応する屋根架構です。
正方形平面ではない長方形平面の方形屋根は、単純なかたちなのですが、採用するには設計上の工夫と製作上の高い精度、通常ではないものに対する施工者の寛容性が必要です。単純なかたちですが、少々特殊なのです。
個人的に、屋根は意匠的にも雨仕舞的にも単純な形状が良いと思っており、方形屋根は見た目のおおらかさ、かわいらしさ、和でも洋でも用いられる普遍的意匠性から私好みの屋根形状です。
標準金物を本来使用しない部位で使用し、また角度が45度でないことで複雑になるプレカット加工を3Dモデルで管理することにより、特殊な金物を製作せずに長方形方形屋根の設計をしています。
方形屋根好きだけど、正方形平面の建物を建てられる望ましい敷地ではない、真四角じゃない平面だけど方形屋根にしたい、といった要望にも今回の設計手法は使えるはずです。
1フロア約42㎡の2階建てで、かかった工事費は約1500万円でした。
ウレタン断熱材吹付けや階段壁面塗装を自らおこなったり、表面仕上げ材を省いて構造あらわしや下地素面をそのまま仕上げにするなどで、工事費用を抑えています。逆に壁面棚(全ての壁面)や大テーブル(下部は収納棚)など造作家具には200万円以上かけているので、建物本体工事費はかなり低く抑えられています。
2階の西側壁面は掃き出し窓を外付けし、窓の障子を柱位置と合わせることで巨大な開口部に見え、住宅の開口部とは一味違ったものになっています。それを通して見える内側の壁面は板を化粧張りし木製建具(回転窓)がアクセントの、魅せる壁面となっています。そしてその木製建具の向こうに天井木組みが見える、という外側から見たくなるような多層的なデザインにしました。
1階の壁は、ピロティ駐車場側のみポリカーボネート波板で、室内側倉庫の明かりによって壁面が縞模様に発光するランタンのように周囲を明るく照らします。
2階の天井は構造があらわしになる傾斜天井で、その中央の一番高いところがトップライトになっています。トップライトからの自然光は大部屋である事務室に気持ち良く注ぎ込みます。
外壁に沿って室内側に庇のような低い平らな天井をぐるりと設けることで二種類の天井が混在しています。大部屋天井が単調に見えないようにする事と、庇天井のダウンライト照明で良好な照明環境を実現しています。
今回は改めて木造建築の設計はおもしろい、と感じながら設計監理、工事管理ができました。
入口のサインは、彫刻家の近正匡治さんに、「階段を登る事を促す」サインの機能をもった彫刻作品を作成いただきました。夫婦共にアーティストで、彫刻屋 近正の屋号で活動されています。インド旅行で知り合ってから、いつか作品を作って欲しいと思い、約23年越しの念願がかないました。
モデルの猫は両親が愛でる実在する猫で、事務所のまわりをうろついていますので、可愛がってもらえますとうれしいです。
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